庶民の商店街といった風情を残す芝2丁目の新堀商店街に、ひときわ目立つ古風な建物がある。大正3年創業の「寿司芳」だ。
「昭和24年に建て直したものなんですよ。古い店でねえ」と女将の川合信子さんは謙遜気味に話す。だが、入口や窓には指物師の手による木枠がつかわれており、こじんまりとした店内には日本家屋特有の落ちついた雰囲気が漂う。
十代の頃から店の経理を引き受け、寿司芳の暖簾を守ってきた女将さんは、昔ながらの江戸寿司に強いこだわりを持っている。「学生時代も毎日昼に家に帰ってはヤスケ(コハダ)をつまんでいた」というから、並の寿司好きではないのだろう。
「昔はテーブル席なんてなかったんですよ。ご近所の人が夕方、銭湯に行く前にちょっと寄って、カウンターで二つ三つヤスケをつまんで、冷酒をちょっと飲んで、というのが普通でね。粋な世界だったもんです」。
現在、店で寿司を握っているのは、息子の康夫さんだが、世代が交代しても「寿司芳の寿司」が変わることはない。ごはんはジャーを使わず、年代ものの「おひつ」と「つぐら」(藁で編まれた保温用のカゴ)を愛用。夏は冷房がきいた店内で、お米が人肌のぬくもりを保つように、おひつを電気カーペットの上においたり、ふとんでくるんだりと、様々な苦労があるらしい。
ちらし寿司の「おぼろ」も100%エビを使った贅沢なものだ。薄桃色のおぼろはほのかに甘く、繊細な舌触りがある。そして常連さんに人気の穴子は、しっかり甘いのに、しつこくない。穴子に塗るつゆは何十年も同じ鍋で「量が減ったら足して煮詰めて、こす」という手順でつくられているので、同じ味が守られているという。
もちろん魚にもこだわりがある。「羽田沖で穫れた魚ばかりです。養殖魚は一切使いません」と女将さん。雰囲気のある店で昔ながらの江戸寿司をつまむ。職人堅気の女将が守り続ける寿司を一度味わってみてはどうだろう。 |
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寿司芳
港区芝2-16-4
TEL 03-3451-3026
営業時間 11:00〜22:00
定休日:日・祝日
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